高速で飛ぶジェット機や,ハヤブサなどの鳥の翼断面は,空気抵抗を抑えるために整った流線形をしています。一方,トンボの翅の断面は非常に薄く,その形状は凸凹(でこぼこ)しています(写真2上)。流線形の翼は,飛行体には当たり前の形なのですが,ではなぜトンボは凸凹翼を持っているのでしょうか。特殊な可視化実験を行った結果,トンボの持つ翅の断面形状に,優れた飛翔能力の秘密が隠されていることが分かりました。
トンボが飛翔する粘性力の強い世界においては,一般的な流線型の翼では,粘性によって空気が翼にまとわりついてしまい,流れを流線形に整えることが出来ません。その結果,浮く力である揚力は小さく,空気抵抗は非常に大きくなり,極端に性能が低下してしまいます。一方で,トンボの凸凹翼は空気の粘性を利用して翼上面の前縁から整った渦列を常に放出しており,それによって翼にまとわりつこうとする空気を追い払うだけでなく,渦をキャタピラーの駆動輪の様に用い,空気を整えて流す事で揚力を大きく,抵抗は小さくしているのです。
凸凹翼にはもう一つ,加速・減速による翼周りの外部流の変動の影響を受けにくいという特性を持っています。つまり,トンボの翅は飛行中の旋回や急加速や,自然風による速度変動の影響を受けにくいという事であり,翅の凸凹の形状が飛行安定上極めて有利なのです。
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上:ギンヤンマの前翅の断面図。でこぼこしていることがわかる。 提供:日本文理大学マイクロ流体研究所。
下:前翅の周りの空気の流れを可視化した写真。翅上面に渦が発生している。 提供:日本文理大学マイクロ流体研究所
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